版画の種類と刷り→木を使ったリトグラフ (2017 04 21) 提供作家の作品情報 YOU Tube
木を使ったリトグラフ(木<もく>リト)ー版を楽しむー
基本原理;
なぜ彫らないのに絵にインクを付けることが出来るのでしょうか?それには水と油が反発し合うという皆さんよくご存じの性質と、さらに水があるところでは油は油同士引き寄せ合って一つになろうとするという性質が使われています。
皆さんは木の板にペンキやニスを塗ったことがありますか?塗ったところは水を弾きますよね。木リトでは「水を弾くところ=油性インクが付くところ」になります。ペンキやニスの代わりにソリッドマーカー等の油分の強い描画材を使って絵を描き、アラビアゴム(水溶性)の液を全体に塗るだけで版を作ることが出来ます。
アラビアゴムは描かなかったところにインクが付かないようにするためのもので、木地の細部に入り込み強力な保水パワーを持つ親水膜を作ります。彫らないで版が作れるのはこのアラビアゴムの化学的作用があるからです。
特 徴;
木リトは木の板に絵を描いた後でアラビアゴムという酸を塗るだけで版を作ることが出来ます。 ドローイング部分にインクが付着し、木目などの木の風合いが加わって紙に画像が刷り取られるのが 特徴です。手順はとても単純で簡単。版材もホームセンターで売っているベニヤ板で出来ます。
(木を使ったリトグラフは多摩美術大学名誉教授である小作青史氏が考案した技法です)
制作工程:概略
- 版木の用意; 厚さ4mmのシナベニヤ
- 描 画;下書きをしたり直接描画する(十分に乾かす)
- ドーサ(ニジミ止め液)の塗布
- 製 版;アラビアゴム液を刷毛などで全体に塗る→放置
- 刷 り;
①インクの準備
②アラビアゴム液を拭き取る
③終止湿気を保つ
④ローラーでインク盛り
⑤プレス機の圧をかけ刷り取る
写真1
材料準備:
- ソリッドマーカー(サクラ製)
- クレヨンタッチで描ける解墨(水で溶かして筆などを使って描く)
- リトグラフ専門画材ジェッソ(今回はグレートーンを作るために使用。マチエール等様々なことが出来る)
製版以降
- アラビアゴム液
- 版画用油性インク(リトグラフ用インク)
- ローラー
- 霧吹き
- プレス機
*ドーサの作り方
100ccのぬるま湯に膠(ティースプーンに少々)を入れて完全に溶かす
膠はパール、粒、粉末、三千本、液状(瓶入り)等々どれでも出来る
クロム明礬(フタの出来る容器)に水を入れて濃く溶かし、大さじ1杯弱位
を膠液に加える。ビニール手袋着用のこと。
膠やクロム明礬の濃度は作家によって様々、これが正解というものは無いようだ
● 木版リトグラフの制作過程:詳細・・・・詳細は画像をクリックし拡大画像で!
1 版木の用意 2 描画
★画像をクリアにするためには・・・
独特の油膜や木目が現れるのは木リトの魅力です。これはインクが木の繊維に滲んだり引っかかったりする為ですが、面白さの反面、ともすると画像が物質感に負けてぼやけてしまいがちです。そこでこの後の製版作業に入る前に滲み止めとしてドーサを塗布しておくと、描いた形をクリアに作ることが出来ます。
ドーサには膠を使うやり方とカゼインを使うやり方の二通りがありますが、ここでは膠を使うやり方を紹介します。(ドーサの作り方参照)
3 製 版
アラビアゴム液を刷毛等で全体に塗る (SK液でも可)→寝かせる(放置)
アラビアゴムが木地に染み込み、化学的作用で板表面が親水コーティングされるコーティングを強力にするには(画像を崩さずに刷るには)、塗った後、数日置く
4 刷り(アラビアゴムが働き、見た目は変わらないが「板絵」が「版」になっている)
4−1インクの準備 4−2アラビアゴムを拭き取る
4−3版面の湿り気を切らさないこと 4−4インクを盛る
4-5 圧を加えて紙に刷り取る→刷り上がり
ここでは木板用のプレス機を使ったが、銅版プレス機はもちろん、紙を湿せばバレン、足刷りでも出来る
終了後、版にアラビアゴムを塗っておけば刷りを再開することが出来る
★注意点
インクは油性なので、掃除には灯油やペイント薄め液等を布にしみこませて拭き取る
ドーサ、アラビアゴムを塗った刷毛は水洗いする
溶剤、クロム明礬等の薬品の取り扱いにはビニール手袋を着用し、目や口に入れないよう気をつけて行う
最後に・・・
木リトは基本的には版面は平らですが、彫りを加えることもコラグラフのようにマチエールを作って描いた形と同時に刷ることも可能です。表現のバリエーションが大変豊富であることも大いなる魅力のようです。
もしクロム明礬が入手出来ない場合やドーサ作りが大変だなぁと感じたら、まずは「無し」でやってみてください。何よりも、成功するコツは描画後の乾燥とアラビアゴム塗布後の寝かしに何日もかけることです。