国画会が運営する日本最大級の公募展。

英国湖水地方で開催された「国展工芸」展「入り口から一歩進み入るとそこはもう全てのものが調和し呼応しあう、まるで魔法にかけられたような空間にたたずんでいる。」マケイ・ヒュー・ベイリー・スコット、1897年イギリスの湖水地方ヴィンダミア湖畔に100年前に建てられた建物を新規改装して造らた館「ブラックウェル・アーツ&クラフツ」のオープニングを記念して、2001年10月3日から12月21日まで「国展工芸」展が開催されました。

この展覧会は、原則として工芸部全会員の参加による初めての海外展でもあります。「ブラックウェル・アーツ&ラフツ」の建物は、1900年に英国のアーツ&クラフト運動の著名な建築家ベイリー・スコットによって完成された、スコットの代表的な館の一つです。
この工芸館は、ヴィンダミアに近いケンダルの町にある美術館アボットホールのエドワード・キング館長が、長年の使用により荒れていた館を内外装、家具にいたるまで100年前の状態に復元し、アボットホールの姉妹館としてオープンしました。その柿落としの展覧会に「国展工芸」が選ばれたのです。その経緯は、イギリス湖水地方に在住の陶芸家で国展会員のエドワード・ヒューズ氏を訪ねたキング館長の目にヒューズ氏の所有していた国展の図録が留まったのがきっかけで、展覧会が実現することになったのでした。また、この催しは日英間の友好親善を目的とした「ジャパン2001年」の公式行事の一環として行われたものです。

キング館長の招きに応じて、国展工芸部は染・織・陶・木工・ガラス・皮革等の会員62名の作品100点余の出品と同時に、工芸部創設期に関わりの深かった柳宗悦・浜田庄司・バーナード・リーチ・芹沢ケイ介等諸先生の作品計17点も、特別に陳列することができました。また、新装オープンの工芸館には、日英両国の親善と感謝の気持ちをこめて会員が創作した染織の73点のクッションが寄贈されました。ヴィンダミア湖を見下ろして建つブラックウェル館の、真っ白な壁や黒光りする太いオーク材の柱、レリーフの彫られた梁、暖炉にはめ込まれたタイル、ステンドグラス、モザイクの床等々がアーツ&クラフツ装飾の多分野にわたる工芸を駆使しながら静かな空間を構成しています。その落ち着いた空間と国展工芸の作品がどのように呼応しあうか、果たして調和するだろうかが興味のあるところでした。

展示はキング館長の強い意志によって独断で行われたとのことですが、空間と作品双方のより良い効果を考えての陳列であったと思いました。数点の着物が斜めに並べて展示されていたのも新鮮に感じられました。
期間中には、セミナーとワークショップが開催されました。セミナーは、10月4,5日の2日間にわたり、国展工芸の各部門の作家たちが、自分の制作の姿勢、技法、市場性や歴史等についてビデオやスライドを使って語り、日英両国の工芸を中心にそれぞれの持つ諸問題について参加者との話し合いが持たれました。
残念ながらセミナーの開催が館のオープンと同時であり、宣伝の期間が短かったためか参加者は多くありませんでしたが、内容の濃い、充実した会になり活発な質問も出て互いの現状を垣間見ることのできた良い機会だったと思います。また、ワークショップは期間も延べ7日間、ブラックウェルの館内と、カーライル美術大学の2箇所で2人の作家が、それぞれ展示の作品と同程度のレベルの型染と捺染の制作工程を実演し、参加者にも体験して貰いました。こちらの方は参加者も多く、積極的で熱心な方々との交流に大変豊かで有意義且つ印象的な経験が得られました。

「国展工芸」展が開催された2001年は国展の75周年に当たる記念すべき年でもありました。今や世界も狭くなりいろいろなチャンスに出会う可能性が出てきました。好機を捉えて前向きに活動して行きたいものです。

2002/04/12

 


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