リトグラフとウォータレス・リトグラフの違い
開発された時代背景:発想の違い
●リトグラフは18世紀末の重工業主義時代1798年にArois Senefeldeが発明した平版技法。
<水と油の反発を利用し、版面の化学反応を待って製版する>方法で、溶剤を多用する。
●ウオータレス・リトグラフは、化学知識とエコロジー意識の進んだ現代20世紀後半になって研究開発され、手作業による版画技法としては、カナダのNikSemenoffが1990年に完成させた。
<不感脂性の物質シリコーンで非描画部分をマスキングして版にする方法>
刷り行程で危険な溶剤を使わない安全な技法として開発されたNonToxicリトグラフ。
これは、制作プロセスがシンプルになって刷り行程でのトラブルがほとんどなくなっただけでなく、版の長期保存も可能になり、特筆すべき長所の多い技法。
制作材料の違い
描画部分
リトグラフ:感脂性のダーマート鉛筆と油性解墨で描画する。
版に感脂するので描画途中で消すことは出来ない。(修正加筆は製版の後)
ウオータレス:水溶性のオムニクローム色鉛筆と墨汁で描画する。
描画中は消して修正出来るが、製版後は加筆できない。
非描画部分の処理
リトグラフ:アラビアゴム水溶液を塗布後乾燥し、数日反応を待ってから製版する。
色刷りの後は必ず製版インクに盛り代えて保存。
長期保存後の刷り増しは、版が壊れている場合が多くて難しい。
ウオータレス:シリコーン液を塗布して乾燥すると、すぐに本刷りが出来る。
刷り終了後、製版インクに盛り代えず印刷インクのまま保存する。
溶剤の違い
リトグラフ:石油系溶剤を多用。製版・本刷りの度に毎回インクを溶剤で除去しなければなら
ない。
ウオータレス:水洗いで描画は消せる。特に消えにくい部分だけティッシュに滲ませた少量の
アセトンで拭けば消える。
印刷インクの違い
リトグラフ;ワニスで練った粘着性の強い油性インクを使用
ウオータレス:ラバーベースで綾ったインク:製品名・ラバーベースプラス
ラバーベースとは、鉱物油と植物油を混合したベースで作られている油性インクで、ワニスほど粘着性が強<ないのでシリコーンに付着しない。
ローラーの違い
リトグラフ:太い色刷り用ゴムローラーと、製版用皮ローラーを使用。
丁寧にゆっくりインクをつけるが,絶えず版全面をしめらせていなければならない。
ウォータレス:回転の速いゴムローラーを使用。
シリコーンに付かないようにインク盛りをする時、速いスピードでインクを盛る。
版が乾いて壊れる心配はない。
<伝統的リトグラフ版からウオータレス版への転換>
- 伝統技法で描画したもので、製版プロセスでラッカー返しがしてある版であること。すでに製版済みで保存してある版のインクを溶剤で拭き取り、ラッカー画を出す。濃めにラッカーを塗りかえす。ラッカーの上にインクやチンクターはつけない。
- 版画を水拭きして、余白部分のアラビアゴムを拭き取り、版の素地を露出させ、水分を乾かす。
- 露出版面にシリコーンを塗って乾燥させる。
- ラッカーをアセトンで取り去ると、ラッカー上に付いているシリコーンもとれて描画部分の版画が露出する。
- この露出部分にラバーベース・インクを盛る。画像が明瞭に出るまでローラーを回転させれば完成。伝統的リトグラフの版をウオータレス版に転換しておくと長期保存版が出来る。