国画会が運営する日本最大級の公募展。

版画の種類と刷り→ウォータレス・リトグラフ (2017 06 06) 提供作家の作品情報

ウォータレス・リトグラフ―版を楽しむー

ウオータレス・リトグラフとは?

リトグラフは平版の版画で、木版やエッチングのように凹凸で明確な版を作るのではなく、平面上にドローイングしたものをそのまま印刷する技法です。その原理はく水と油の反発を利用するアイデア>から生まれました。従ってリトグラフの版は壊れやすいので、制作行程が複雑で、習得の難しい技法でした。それに比べウオータレス技法は、プロセスがシンプルで安全な技法です。

 ウオータレスとは、平版でも<水拭きなしに描画部分だけにインクが盛れる技法>ということです。

ウオータレス技法の長所と短所

◎長所

  1. 水溶性の描画材料で描くので、描画中に消して描き直すことが出来る
  2. エッチングのような細い白・黒線も描ける
  3. 白黒反転がきれいに出来る
  4. 水拭きしながらインク盛りをする苦労がない
  5. 湿し水によるインクの劣化が起きないので色は鮮やかにクリアーに刷れる
  6. 刷りの途中で放置しても版が壊れることはない
  7. 刷りのプロセスで、感脂性が進んで描画が漬れたり濃くなっていくことはない
  8. 版を長年保存出来、数年後になっても変わらない調子で刷り増しが出来る。長期保存するほどシリコーン膜が堅牢になり画像が安定するからである
  9. 制作工程が複雑でない

短所

  1. 一度シリコーンを塗ると版から取り去る事が出来ないので、試刷り後の加筆修正が難しい。
  2. インク盛り作業に力とスピードがいる。
  3. 大作の場合はローラー跡が残りやすいので、注意を要する。

 リトグラフとウォータレス・リトグラフとの違いはこちらから

制作工程:概略

  1. 描画;ドローイング、コピー転写、トナー焼き付けなど、細線描写
  2. シリコーン塗布;①シリコーンの薄め液をつくる ②全面に塗る ③乾燥する
  3. 製版;水で洗い落とす。水では消えない部分だけを、少量のアセトンで拭き取る。
  4. 刷り;ローラーは版の外から外へ移動(版の途中で止めない)
  5. 版の保存;刷ったインクのまま放置
  6. 後刷り;後になって刷りたい時の場合

ウオータレス・技法で使用する材料

1)描画材料: 水溶性色鉛筆:スタットラー・オムニクローム108-9墨汁十にかわ成分

ペイント・シンナーで溶けないコピー転写・トナー焼き付け・ラッカースプレー・ニス等も使用出来るがこの場合は、消去にアセトンを多用する事になる

2)シリコーン:ホームセンターで売っている シリコーン・シーライト・クリアー

3)溶剤:シリコーンを液状薄める溶剤として、ペイントうすめ液を使用 

 

アセトン、シリコーン薄め液、ゴム手袋、スポンジ、筆、試験描画済み版

アセトン、シリコーン薄め液、ゴム手袋、スポンジ、筆、試験描画済み版

墨汁とシリコーンの薄め液

墨汁とシリコーンの薄め液

描画材料、インク、ローラー、インク練りバット

描画材料、インク、ローラー、インク練りバット

  

 

 

 

 

4)インク:●VANSON:ラバーベースプラスINK(オランダ製 各色あり)ブラックはVS105・Black#10850がよい      

注:国産ドライ用印刷インクとして、東洋インキ=アクアレス・インクや大日本インキ=ドライオカラーなどがあるが、高速印刷向きに乾燥剤が入っているので、手刷りの版画には向かない。

5)インク盛り用・台板(必需品):版の周辺にインクが付かないように、

これに版を乗せてインク盛りをする。版より10cm以上大きい厚板にシリコーンをチューブからそのまま出して塗り、表面を滑らかにして乾燥させる。水溶性でない描画の場合は少量のアセトンを使用

6)ゴムローラ; 硬質(赤)4.5cmx12~18cmのSNゴムローラー

専用に開発された大作用のトリプルローラーもあり、早い回転で広い画面にむらなくインクが盛れるが、特に必要ではない。

ゴムローラーの乗っている黄味の板でシリコーン原液が塗ってある。この板にインクが付いてもローラーを転がせば綺麗にとれる。

4)5)6)ゴムローラーの乗っている黄味の板でシリコーン原液が塗ってある。この板にインクが付いてもローラーを転がせば綺麗にとれる。

燃えない金属板の上で、版面に近づけゆっくりと熱して乾燥させる。

7)燃えない金属板の上で、版面に近づけゆっくりと熱して乾燥させる。

1つのスポンジでシリコーンを全面に引き延ばし、2個目のスポンジを2枚のティッシュで包みシリコーンを薄く均一に拭き取るようにする

8)1つのスポンジでシリコーンを全面に引き延ばし、2個目のスポンジを2枚のティッシュで包みシリコーンを薄く均一に拭き取るようにする

 7)ヒーティングガン:シリコーン乾燥用。ドライアーと違い高温(300度以上)で風力は無く、ペンキ剥がしや焼き付け加工に使われるもの   

 8)ケミカルのラバースポンジ2コ:シリコーン塗布とペーパーをかぶせて延ばすとき用

9)新聞紙4-5枚

10)ティッシュペーパー:一箱(必需品) 

製作基本技法/詳細

描画

1)ドローイング ●水溶性色鉛筆 スタットラー・オムニクローム108-9 

              ● 解墨 墨汁にアラビアゴムか膠を加えたもの

他、コピー転写・トナー焼き付け・ペイント・シンナーで溶けないラッカースプレー・ニス等を使用できるが、その場合は、描画を消すために溶剤アセトンを多用することになる

各種描画材料による表現 各種描画材料による表現

2)エッチングのような細線の描画

 白線:シリコーンが乾燥した上をスクラッチし、インク盛りをすると製版出来る

 黒線:墨汁が乾燥した上をスクラッチして、シリコーンを塗る

シリコーン塗布

描画が完成したら、アラビアゴムの代わりにシリコーン薄め液を全面に塗る

<シリコーン薄め液の作り方> 少量ずつペイント・シンナーを注いで良く撹挫し、シロップ状の液にする

シリコーン原液

薄め液の作成

シロップ状の粘度に

シロップ状の粘度に

 

<シリコーンの塗り方> 厚塗りすると描画部分にシリコーンが被って画が消えなくなりインクがつかないというトラブルが起きるので、ティッシュペーパーをかぶせたスポンジで2回、画面全体によく伸ばす。

シリコーン薄め液を版面上にたらす

シリコーン薄め液を版面上にたらす

スポンジで手早く均一に塗布して行く

スポンジで手早く均一に塗布して行く

ヒーティングガンの加熱温度が高いため、版の下には可燃物を置かないこと。

金台の上で描画上の全面シリコーンを乾燥

 

<シリコーンの乾燥> 高熱のヒーティングガンで焼き付けると、化学反応を待つ必要は無いのですぐに刷れるヒーティングガンを使わない場合は1日放置すればよい

製版

水とアセトンできれいに洗って描画部分を露出し、シリコーン台の上に版を移して、ローラーで色インクを盛れば、製版が完成する。色刷り終了後も、製版インクに盛り代えず放置すること。

ヒーティングガンで乾燥後、描画を消すべく水洗いをする。

ヒーティングガンで乾燥後、描画を消すべく水洗いをする。

シリコーンは落ちません。描画部が消えた所へインクがのる。

シリコーンは落ちません。描画部が消えた所へインクがのる。

 

 

 

 

 

刷り

版の外から外へ(途中で留めたところにローラー跡がつくので止めてはいけない)素早くローリングをくり返す事によって、画面やシリコーン台に付着したインクが取れてくる。

インク台についた汚れは、刷りのローラーで巻き取れるが、別のローラーを使うほうがインクにゴミが入らなくてよい。

プレス機で刷りを完成させる。

インクをローラーに巻き付けながら版の外から外へ出るように(版の中で止めないように)素早くタテ、ヨコ、斜めと、版に描いた状態を思い出しながらインクを盛って行く

インクをローラーに巻き付けながら版の外へ出るように素早くタテ、ヨコ、斜めと、版に描いた状態を思い出しながらインクを盛って行く

 

 

 

 

 

 

 版の保存

刷ったインクのまま放置すればよい。

インクが画面に付いていないとシリコ一ンが画像を侵蝕するので、インクを消してはいけない。

注意:保存中は、シリコーン膜が傷つかないように包み保存すること

後刷り

乾いている画像のインクを、ティッシュにアセトンを含ませてそっと拭くと、再びインクがつく。

注意:●薄いシリコーン謨を痛めないように、強く擦ってはいけない。

  • 色を変える場は、アセトンでインクをすべて取り去ってから、新しい色インクを盛る
  • 長期保存するほど、シリコーンが堅牢になって安定して刷れる。

(以上が基本技法)


*今回は会場の都合上、本来の工程であるプレス機を使用出来なかったが、便宜的な方法として以下のような刷り方もあるので参考までに掲載します。

版面にインクを盛った後、刷り紙をこの上にのせる。

版面にインクを盛った後、刷り紙をこの上にのせる。

版上に刷り紙を挟んで新聞で覆う。プレス機の場合は紙を塗らさなくて良い、が足の場合なので一晩湿して新聞紙に挟みビニール袋にいれておく

版上に刷り紙を挟んで新聞で覆う。プレス機の場合は紙を塗らさなくて良い、が足の場合なので一晩湿して新聞紙に挟みビニール袋にいれておく

靴を脱ぎカカトを中心に版全面を3周回位をメドに踏んで行く

靴を脱ぎカカトを中心に版全面を3周回位をメドに踏んで行く

摺上がりを確認

摺上がりを確認

 

 

 

 

 

 

応用技法

<写真製版>

現像液で洗ってイメージが残った版上に、アラビアゴムの代りにシリコーンを塗る

乾燥後イメージをアセトンで消して印刷インクを盛れば製版終了。

<白黒反転法> 最初の版は、従来の伝統的描画法で製作してあるものに限る。

  1. アラビアゴムを塗布して乾かしてある版の、描画部分を溶剤で消してシリコンを塗る。
  2. アラビアゴムを洗って乾かし、版面にラバーベース・インクを盛ると描画部分が白く抜けて、ウオータレスの白黒反転版となる。

<一版多版色刷>

  1. 伝統技法で主版を描き、必要枚数をプリントしたらインクを取り去る
  2. ゴーストイメージだけが残った版面にアラビアゴムを塗って乾かす
  3. 重ねる画像を水溶性でない画材で描画する。水溶性でない画材としてはトナー、ラッカーなど、アセトンで消える描画材料に限られるが、オムニクローム108-9鉛筆は水でなくアセトンでも消えるので使用可
  4. この描画上にシリコーンを塗って、水は厳禁で必要枚数をプリントする。
  5. これを洗ってゴムを落とし、また新しくゴム引きした上に描画する

●これを繰り返すと、1版上で幾度でも描いて刷り重ねられるわけである。

<木版リト>

  1. 版材に下塗りとしてセラックニスか水性ウレタンクリアーを塗っておく。
  2. 描画したところにシリコーンを塗り ウオータレスでインク盛りする。

●長所は、水を使わないので木目にインクが滲まずきれいに刷れること。

<石版の場合>

 シリコーンに含まれる酢酸からカルシューム分の多い石版の表面を守るためあらかじめ水ガラス液を塗り、石面を保護してから製作する。

リトグラフとウォータレス・リトグラフとの違い

開発された時代背景:発想の違い

制作材料の違い

 描画部分

 非描画部分の処理

 溶剤の違い

 印刷インクの違い

 ローラーの違い

伝統的リトグラフ版からウオータレス版への転換

 ・転換の条件

 ・転換の方法

 ・転換保存の意義

 


以上は2017年 5月 29日 日本美術家連盟会館にて行われた『公開講座』(ウォータレス・リトグラフ講座)に基づいて制作された内容です。
講師:星野美智子(協力:保坂洋平・小作青史) 編集責任:太田策司

 

 


▲ページ先頭へ