第83回国展絵画部鑑査方針

・・・ご 挨 拶 ・・・
 国立新美術館における開催は3年目を迎えました。この間の成果は著しく、一般出品者が129名も増加したことは過去に例をみない喜びであります。国展の入場者数も73,312人で(前年比14,187人増)平成7年度の約3倍を超えています。鑑査は、鑑査員長に特別な権限があるわけではなく、これまで議論し積み上げてきた公正で民主的な、全会員の集約した意見を土台に83回展を進行していきます。
 出品者の関心は「国展はどんな作品を評価するの・・」ということでしょう。このことについては会員各自の審美眼の集積で一概に答えることは難しい。私が感じているこれまでの審査傾向は、一般的な色彩やフォルムの善し悪しや、抽象・具象等の表現様式ではなく、従来の絵画に見られない強い独自性ともいえる表現に、審査員達の強い視線が照射されているように思います。つまり、「個性、創造性」を最も重視している集団が国展の現在だと思っていますが、皆さんはどの様に感じているでしょうか。
 大正8年に文展に対して在野の精神で誕生した国展は、文展もなくなった今日では、広く人間の「生と芸術」の関わりを追求してきたと言えます。この間、我が国は戦後の復興を乗り越え、経済を中心にめざましい発展をとげてきました。1993年にはGDP(総生産)がOECD(経済協力開発機構)加盟国30ヶ国中で2位をランクし、経済大国と錯覚する程成長しました。しかし、2006年には18位まで日本だけが急落し、もはや、先進国とは遠くなりつつあります。その原因として、ベンチャー企業が極端に少ないこと、多様性に欠ける日本人の工夫力、創造性の弱さ等を指摘する人が多くいます。長年にわたる経済優先の施策は、創作活動への社会的価値観を低下させ、趣味的なもの、老後の惚け防止の手段に相当する余技的なものと考える人が多いのではないかと思います。美術教育の現場にも危機的状況(小学校5.6年は週1時間)をもたらしています。国語も算数も大切であるが、独自な発想を育てる絵画の役割は人間形成の上で、重要であることを社会的に認識させていく必要があります。国画会は国内最大規模の団体展としての評価が定着してきましたが、更なる発展として、なぜ「個性、創造性」が人間にとって必須であるかを積極的に提唱する活動が、今後の最優先課題ではないかと私は考えます。
 最近の株価暴落や経験したことのない経済不安は、1930年代の世界大恐慌期に匹敵すると報道されています。このように不安な時期を切り抜けた世界的施策「ニューデイール政策」は注目すべき史実です。1935年にルーズベルト大統領は民主主義の根幹である「自由」は、独創、発想を育てる芸術教育にあるとして、経済的に直接需要を伴わない弱い立場の芸術家をWPA(公共事業促進局)、FAP(連邦美術計画)を創設して、政府が直接雇用しました (18,000人、ニューヨークの1936年10月、美術家のみの雇用数2,323人、月額約95ドルの給料注)。デービス、ルイス、ポロック、ロスコ、クーニング、バジオーテス等が活躍しています。加えて、ヒトラーに弾圧されたバウハウスの教授陣、グロピュース、カンジンスキー、クレー等を直接輸入し、劇団プロジェクターと併せて「白雪姫」、ニューミュージック等、現代芸術の基盤をアメリカから発信し、経済発展にも成功している事は、今日の日本に芸術活動の意義を示唆できる歴史と言えます。
 日本国憲法の基本理念は1自由、2主権在民、3戦争の放棄です。2と3は国会でも様々議論され、メデアの話題にもなっています。しかし、「自由」については「言論の自由」「個人の自由」はあたり前のこととして、過去63年間放置され、その結果「わがまま勝手な行為」も個人の自由であるような今日の社会風評を育ててしまったように思います。知的教科偏重の学力社会は、独自な発想、他と違う答えの尊重を封じ込め、大学に進学するにもセンター試験は5教科7科目のマークシートで人間を判定することに、疑問を抱かない国民になってしまいました。金融機能強化法や定額給付、高速料金値下げも一時的な対策になるかもしれないが、大切なことは抜本的な人間改革を考える必要に迫られているのではないでしょうか。個性的な人間、創造的な人間が、今こそ日本国に必要な人材であると考えます。
 国画会は創作活動をとおして「個性と創造性」を育む団体展にふさわしい、第83回国展を国立新美術館で行います。東京都美術館で開催した頃の3.9倍の展示面積を準備し、私たちと一緒に創作活動に情熱を抱く仲間を求めています。全国から多数の出品者をお待ちしています。
注 参考 三井 滉著『現代美術へ』

2009年1月

絵画部鑑査員長 佐々木 良三



2009 Tokyo
83th KOKUTEN KAIGABU EXHIBITION

第83回 国 展

会  期:2009年4月29日(水)〜5月11日(月)(5月7日(木)は休館)

入場時間:10:00pm〜6:00pm(最終日2:00pm 閉会)
会  場:六本木 国立新美術館 Tel:03-6812-9950(代)

【巡回展】
名古屋 展  会期:5月19日(火)〜5月24日(日)
会場:愛知県美術館ギャラリー Tel:052-971-5511

大 阪 展  会期:6月9日(火)〜6月14日(日)
会場:大阪市立美術館 Tel:06-6771-4874

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第82回国展絵画部鑑査方針